真宗の聖教(しょうぎょう)

正信偈(しょうしんげ)全文

正式名称:正信念仏偈(しょうしんねんぶつげ)

前半:書き下し文

後半:白文

引用元:東本願寺出版部発行「真宗聖典」より p204~208

( ):ふりがなは「真宗聖典」から転記しています。


無量寿(むりょうじゅ)如来(にょらい)に帰命(きみょう)し、不可思議光(ふかしぎこう)に南無(なむ)したてまつる。


法蔵菩薩(ほうぞうぼさつ)の因位(いんに)の時、世自在王仏(せじざいおうぶつ)の所(みもと)にましまして、

諸仏の浄土(じょうど)の因、国土人天の善悪を覩見(とけん)して、

無上殊勝(しゅしょう)の願を建立(こんりゅう)し、希有(けう)の大弘誓(だいぐぜい)を超発(ちょうほつ)せり。

五劫(ごこう)、これを思惟(しゆい)して摂受(しょうじゅ)す。重ねて誓(ちか)うらくは、名声(みょうしょう)十方に聞こえんと。

あまねく、無量・無辺光、無碍(むげ)・無対(むたい)・光炎王(こうえんのう)、

清浄(しょうじょう)・歓喜・智慧光、不断・難思・無称光、

超日月光(ちょうにちがっこう)を放って、塵刹(じんせつ)を照らす。一切の群生(ぐんじょう)、光照を蒙(かぶ)る。

本願の名号(みょうごう)は正定(しょうじょう)の業(ごう)なり。至心信楽(しんぎょう)の願を因とす。

等覚を成(な)り、大涅槃(だいねはん)を証することは、必至滅度(ひっしめつど)の願成就なり。


如来、世に興出したまうゆえは、ただ弥陀(みだ)本願海を説かんとなり。

五濁(ごじょく)悪時の群生海(ぐんじょうかい)、如来如実(にょじつ)の言(みこと)を信ずべし。

よく一念喜愛の心を発(ほつ)すれば、煩悩(ぼんのう)を断ぜずして涅槃(ねはん)を得るなり。

凡聖(ぼんしょう)、逆謗(ぎゃくほう)、ひとしく回入(えにゅう)すれば、衆水、海に入りて一味なるがごとし。

摂取(せっしゅ)の心光、常に照護したまう。すでによく無明(むみょう)の闇(あん)を破すといえども、

貪愛(とんない)・瞋憎(しんぞう)の雲霧(うんむ)、常に真実信心(しんじん)の天に覆(おお)えり。

たとえば、日光の雲霧(うんむ)に覆(おお)わるれども、雲霧の下(した)、明らかにして闇(くら)きことなきがごとし。

信を獲れば見て敬い大きに慶喜せん、すなわち横に五悪趣(しゅ)を超截(ちょうぜつ)す。

一切善悪の凡夫人(ぼんぶにん)、如来の弘誓願(ぐぜいがん)を聞信すれば、

仏、広大勝解(しょうげ)の者(ひと)と言(のたま)えり。この人を分陀利華(ふんだりけ)と名づく。


弥陀仏(みだぶつ)の本願念仏は、邪見(じゃけん)憍慢(きょうまん)の悪衆生(あくしゅじょう)、

信楽(しんぎょう)受持すること、はなはだもって難(かた)し。難の中の難、これに過ぎたるはなし。


印度(いんど)・西天(さいてん)の論家(ろんげ)、中夏(ちゅうか)・日域(じちいき)の高僧(こうそう)、

大聖(だいしょう)興世の正意(しょうい)を顕(あらわ)し、如来の本誓(ほんぜい)、機(き)に応ぜることを明かす。


釈迦(しゃか)如来、楞伽山(りょうがせん)にして、衆(しゅう)のために告命(ごうみょう)したまわく、

南天竺(なんてんじく)に、龍樹(りゅうじゅ)大士(だいじ)世に出(い)でて、ことごとく、よく有無(うむ)の見を摧破(ざいは)せん。

大乗無上の法を宣説(せんぜつ)し、歓喜地(かんぎじ)を証して、安楽に生ぜん、と。

難行(なんぎょう)の陸路(ろくろ)、苦しきことを顕示(けんじ)して、易行(いぎょう)の水道、楽しきことを信楽(しんぎょう)せしむ。

弥陀仏の本願を憶念(おくねん)すれば、自然(じねん)に即(そく)の時、必定(ひつじょう)に入(い)る。

ただよく、常に如来の号(みな)を称して、大悲弘誓(ぐぜい)の恩を報ずべし、といえり。


天親(てんじん)菩薩(ぼさつ)、論を造りて説かく、無碍(むげ)光如来に帰命(きみょう)したてまつる。

修多羅(しゅたら)に依(よ)って真実を顕(あらわ)して、横超(おうちょう)の大誓願(だいせいがん)を光闡(こうせん)す。

広く本願力(りき)の回向(えこう)に由(よ)って、群生(ぐんじょう)を度せんがために、一心を彰(あらわ)す。

功徳大宝海に帰入すれば、必ず大会衆(だいえしゅ)の数(かず)に入(い)ることを獲(う)。

蓮華蔵(れんげぞう)世界に至ることを得れば、すなわち真如(しんにょ)法性(ほっしょう)の身を証せしむと。

煩悩(ぼんのう)の林に遊びて神通(じんずう)を現じ、生死(しょうじ)の園(その)に入りて応化(おうげ)を示す、といえり。


本師(ほんじ)、曇鸞(どんらん)は、梁(りょう)の天子 常に鸞(らん)のところに向こうて菩薩(ぼさつ)と礼したてまつる。

三蔵(さんぞう)流支(るし)、浄教(じょうきょう)を授けしかば、仙経(せんぎょう)を梵焼(ぼんしょう)して楽邦(らくほう)に帰したまいき。

天親(てんじん)菩薩(ぼさつ)の『論』、註解(ちゅうげ)して、報土の因果、誓願(せいがん)に顕(あらわ)す。

往(おう)・還(げん)の回向(えこう)は他力(たりき)に由(よ)る。正定(しょうじょう)の因はただ信心(しんじん)なり。

惑染(わくぜん)の凡夫(ぼんぶ)、信心発(ほつ)すれば、生死(しょうじ)即(そく)涅槃(ねはん)なりと証知せしむ。

必ず無量光明(こうみょう)土に至れば、諸有(しょう)の衆生(しゅじょう)、みなあまねく化(け)すといえり。


道綽(どうしゃく)、聖道(しょうどう)の証しがたきことを決して、ただ浄土(じょうど)の通入すべきことを明かす。

万善の自力(じりき)、勤修(ごんしゅ)を貶(へん)す。円満の徳号、専称を勧む。

三不三信の誨(おしえ)、慇懃(おんごん)にして、像末(ぞうまつ)法滅(ほうめつ)、同じく悲引す。

一生(いっしょう)悪を造れども、弘誓(ぐぜい)に値(もうあ)いぬれば、安養界(あんにょうかい)に至りて妙果(みょうか)を証せしむと、いえり。

善導(ぜんどう)独り、仏の正意(しょうい)を明かせり。定散(じょうさん)と逆悪とを矜哀(こうあい)して、

光明(こうみょう)、名号(みょうごう)、因縁を顕(あらわ)す。本願の大智海(だいちかい)に開入すれば、

行者(ぎょうじゃ)、正(まさ)しく金剛(こんごう)心を受けしめ、慶喜(きょうき)の一念相応して後(のち)、

韋提(いだい)と等しく三忍(さんにん)を獲(え)、すなわち法性(ほっしょう)の常楽を証せしむ、といえり。


源信(げんしん)、広く一代の教を開きて、ひとえに安養(あんにょう)に帰して、一切を勧む。

専雑(せんぞう)の執心(しゅうしん)、浅深(せんじん)を判じて、報化二土、正(まさ)しく弁立(べんりゅう)せり。

極重の悪人は、ただ仏を称すべし。我(われ)また、かの摂取(せっしゅ)の中にあれども、

煩悩、眼(まなこ)を障(さ)えて見たてまつらずといえども、

大悲倦(ものう)きことなく、常に我(われ)を照したまう、といえり。


本師(ほんじ)・源空は、仏教に明らかにして、善悪の凡夫(ぼんぶ)人を憐愍(れんみん)せしむ。

真宗の教証、片州(へんしゅう)に興(おこ)す。選択(せんじゃく)本願、悪世に弘(ひろ)む。

生死(しょうじ)輪転(りんでん)の家に還来(かえ)ることは、決するに疑情をもって所止とす。

速やかに寂静(じゃくじょう)無為(むい)の楽(みやこ)に入(い)ることは、必ず信心(しんじん)をもって能入とす、といえり。


弘経(ぐきょう)の大士(だいじ)・宗師等、無辺の極濁悪(ごくじょくあく)を拯済(じょうさい)したまう。

道俗(どうぞく)時衆(じしゅう)、共に同心に、ただこの高僧(こうそう)の説を信ずべし、と。


帰命無量寿如来 南無不可思議光

法蔵菩薩因位時 在世自在王仏所

覩見諸仏浄土因 国土人天之善悪

建立無上殊勝願 超発希有大弘誓

五劫思惟之摂受 重誓名声聞十方

普放無量無辺光 無碍無対光炎王

清浄歓喜智慧光 不断難思無称光

超日月光照塵刹 一切群生蒙光照

本願名号正定業 至心信楽願為因

成等覚証大涅槃 必至滅度願成就

如来所以興出世 唯説弥陀本願海

五濁悪時群生海 応信如来如実言

能発一念喜愛心 不断煩悩得涅槃

凡聖逆謗斉回入 如衆水入海一味

摂取心光常照護 已能雖破無明闇

貪愛瞋憎之雲霧 常覆真実信心天

譬如日光覆雲霧 雲霧之下明無闇

獲信見敬大慶喜 即横超截五悪趣

一切善悪凡夫人 聞信如来弘誓願

仏言広大勝解者 是人名分陀利華

弥陀仏本願念仏 邪見憍慢悪衆生

信楽受持甚以難 難中之難無過斯

印度西天之論家 中夏日域之高僧

顕大聖興世正意 明如来本誓応機

釈迦如来楞伽山 為衆告命南天竺

龍樹大士出於世 悉能摧破有無見

宣説大乗無上法 証歓喜地生安楽

顕示難行陸路苦 信楽易行水道楽

憶念弥陀仏本願 自然即時入必定

唯能常称如来号 応報大悲弘誓恩

天親菩薩造論説 帰命無碍光如来

依修多羅顕真実 光闡横超大誓願

広由本願力回向 為度群生彰一心

帰入功徳大宝海 必獲入大会衆数

得至蓮華蔵世界 即証真如法性身

遊煩悩林現神通 入生死園示応化

本師曇鸞梁天子 常向鸞処菩薩礼

三蔵流支授浄教 梵焼仙経帰楽邦

天親菩薩論註解 報土因果顕誓願

往還回向由他力 正定之因唯信心

惑染凡夫信心発 証知生死即涅槃

必至無量光明土 諸有衆生皆普化

道綽決聖道難証 唯明浄土可通入

万善自力貶勤修 円満徳号勧専称

三不三信誨慇懃 像末法滅同悲引

一生造悪値弘誓 至安養界証妙果

善導独明仏正意 矜哀定散与逆悪

光明名号顕因縁 開入本願大智海

行者正受金剛心 慶喜一念相応後

与韋提等獲三忍 即証法性之常楽

源信広開一代教 偏帰安養勧一切

専雑執心判浅深 報化二土正弁立

極重悪人唯称仏 我亦在彼摂取中

煩悩障眼雖不見 大悲無倦常照我

本師源空明仏教 憐愍善悪凡夫人

真宗教証興片州 選択本願弘悪世

還来生死輪転家 決以疑情為所止

速入寂静無為楽 必以信心為能入

弘経大士宗師等 拯済無辺極濁悪

道俗時衆共同心 唯可信斯高僧説